メンヘラサブカルを意味する英語「Sadboi」音楽シーン&SNS時代の象徴 | HALENG(ハレング)
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メンヘラサブカルを意味する英語「Sadboi」音楽シーン&SNS時代の象徴

音楽好きであれば、どこかで「Sadboi / Sad Boi / Sad Boy」または「Sad Girl」という英語スラングを見たことがあるかもしれません。

サッドボーイ&ガール。そのままです。とはいえただ「悲しい男の子と女の子」ではありません。日本語にするといわゆる「メンヘラサブカル男子」と「メンヘラサブカル女子」といったところ。

音楽シーンから生まれたというこの言葉。まさに「メンヘラサブカル女子」と括られてきた筆者・HALが、その意味と音楽との関わりを詳しく調べてみました。

具体的に「Sadboi」ってどんな人?

Urban Dictionaryを見てみると、まず「世界の出来事に動揺しやすい」と説明されています。いわゆる「メンタルの弱い人」。さらに「人生の意味や自身が何者なのかを問いがち」とかも書かれています。

One who is often upset by things in the world. Often questions what life has for them and talks about things and why they are what they are.

Urban Dictionary「Sad Boi」

ほかの解説には「クラウド・ラップやヴェイパーウェイヴが好きで、悲しい顔とか日本語が書かれた白黒の服を着る」とも。

typically a young teen guy that listens to music such as cloud rap and vaporwave. They also enjoy wearing black and white clothes with sad faces or Japanese lettering.

Urban Dictionary「sad boy」

さらに「心の穴を埋めるための女の子を求めており、その憂鬱を楽しんでいるような男子」とありますね。

Urban Dictionaryなのでかなり皮肉っぽいですが、こういった男女関係は「Sadboi」のポイントとして多々挙げられています。

they are generally depressed and long for a girl to fix that,however they somewhat enjoy the fact that they are sad.

Urban Dictionary「sad boy」

さらに、コロンビア大学が運営しているColumbia Daily Spectator曰く「その銀縁メガネをかけて読む唯一の哲学はミシェル・フーコーで、たぶんビーチ・ハウス、アニマル・コレクティブ、そしてザ・スミスが好き」。

Foucault is the only philosopher he reads through his wireframe glasses. His music taste could possibly feature Beach House, Animal Collective, and The Smiths.

If you’re reading this, stop being a sadboi

ザ・スミスはサブカルの象徴ですからね。ミニシアター系映画にもよく出てきます。……もちろん大好き。個人的にはやっぱり「There Is A Light That Never Goes Out」が一番。

There Is A Light That Never Goes Out

ほかにもいろいろ、本当にいっぱい定義はありますが、ここまでに触れてきた(偏見も含む)説明をまとめるとこんな感じ。まさに「メンヘラサブカル男子」。

Sadboiの定義の例

  1. 世界の出来事に動揺しやすい
  2. 人生の意味や自身が何者なのかを問いがち
  3. ラウド・ラップやヴェイパーウェイヴが好き
  4. 悲しい顔とか日本語が書かれた白黒の服を着る
  5. 心の穴を埋めるための女の子を求める
  6. 憂鬱を楽しんでいる
  7. 銀縁メガネをかけて読む唯一の哲学はミシェル・フーコー
  8. ビーチ・ハウス、アニマル・コレクティブ、ザ・スミスが好き

女子は「Sad Girl」

Urban Dictionaryの例文を見てみると、ラナ・デル・レイ、ビリー・アイリッシュ、ロレッタ・リンが出されてきます。

X1: “X2, who are your favorite celebrity sad girls?”
X2: “I thought you’d never ask, X1. My faves are Lana Del Rey, Billie Eilish, and Loretta Lynn.”

Urban Dictionary「sad girl」
Lana Del Rey - Born To Die (Official Music Video)

日本では「サブカルメンヘラ女子」の方が「サブカルメンヘラ男子」よりポピュラーですが、欧米では逆。「Sadboi」あっての「Sad Girl」です。

i-Dの記事には「人よりいい音楽を聴き、一人で60年代のフランス映画を観たり、90年代の鬱ドラマを観る」と書かれています。

"[The Sad Girl] listens to better music than you and might spend her alone time watching French films from the '60s or angsty TV shows from the '90s."

a taxonomy of the sad girl

特徴はまあほぼ「Sadboi」と一緒ですね。

孤独なあなたを襲う「Sadboi Hours」

Urban Dictionaryでは「内省にふけりながら、その気持ちを仲間に吐露できる夜中の時間」と説明されています。

Sadboi Hours is a time where Sadbois are emotional and can express their feelings with other present Sadbois.

Urban Dictionary「Sadboi Hours」

自身が「Sadboi」でもあるアメリカの新星シンガーソングライター、コナン・グレイも過去に「次の曲はサッド・ボーイ・アワーズに聴きたくなる曲だよ」とツイートしています。

彼については「鬱ロック的な「Sadboi music」」にて。

ヒップホップ界の「Sadbois」

前述したように「Sadboi(Sad Boi)」または「Sad Boy」などと書くわけですが、The Atlanticの記事によると、前者「Sadboi」はラッパーを指すことが多いようです。

Rather, it seemed to crystallize what’s new about today’s “sad bois,” a trending term that Blake understandably finds stigmatizing (you can also spell it “sad boys,” though that can more specifically refer to a rap clique affiliated with the trend).

When Music’s Sad Boys Chase Happiness

私がこの「Sadboi」という英単語を知ったのも、アメリカのラッパー、リル・ザンがよく「Sadboi」と形容されていたから。彼らラッパーは、日本で言う「サブカルメンヘラ男子」よりもヤンキーっぽい外見ですが、性格や人生観としては共通するものがあるわけです。

Lil Xan "Betrayed" LIVE @ Billboard Hot 100 Festival 2018

彼の名は市販薬の「ザナックス」からきており、代表曲「Betrayed」は、その彼がアンチ・ザナックスを掲げて制作したナンバー。ラップを聞き取るのは難しいと思いますが、サウンドだけでもその絶望感はわかるかと思います。

ちなみに「ザナックス」は、アメリカで市販されている抗不安剤。ラップ界のスーパースター、リル・ピープが、2017年に21歳という若さでこの世を去った原因でもあります。もちろん彼も「Sadboi」ですね。

Lil Peep - Save That Shit (Official Video)

アメリカではこのザナックスの乱用が少し前から問題になっているわけです。ビリー・アイリッシュの「Xanny」も、ザナックスをテーマにしたナンバー。彼女は「友人たちにもう死んでほしくない」という思いからこの楽曲を制作したとのこと。

Billie Eilish - xanny

ちなみに日本では「ソラナックス」として心療内科で処方される薬です。正しく使用されれば効果的な薬ですが、依存性が高いことから、日本でも厚生労働省が注意喚起を促したりしています。

とはいえ、前述したように「Sadboi」という言葉は「精神病患者」のように申告ではありません。ポップで皮肉的でアーティスティックな感じ。

鬱ロック的な「Sadboi music」

ラッパーに対して多く使われる「Sadboi」ですが、ヒップホップ以外にも使えます。

ワシントン大学の学生が運営しているStudent Lifeのウェブサイトよると「鬱っぽいときに聴く鬱っぽい楽曲」とのこと。日本語で言う「鬱ロック」ですね。

ちなみに男が歌ってようが女が歌ってようが同じ「サッド・ボーイ・ミュージック」でOK。

Sad boi song (noun): A piece of music which one resorts to listening to when upset or distressed to help deal with emotions in an angsty and sometimes melodramatic way.

Sad boi playlist: this is the best music to cry to

2011年にデビューしたイギリスのシンガーソングライター、ジェイムス・ブレイクも自身のツイッターに「サッドボーイと言われ続けてきた」とした上で「男性が自身の気持ちを表現しただけでそんな風に言うのは不健全だし、問題があると思ってる」と吐露しています。

James Blake 'Retrograde'

彼はPerforming Arts Medicine Associationのシンポジウムで「天才は鬱じゃないといけないっていう都市伝説がある」という苦言も呈していました。

There is this myth that you have to be anxious to be creative, that you have to be depressed to be a genius.

James Blake speaks out about struggle with depression

i-Dにはこんな事も挙がっています。これはアメリカの話ですが、日本も同じような風潮は昔からありますよね。ちなみにこの記事は日本語訳なのでぜひ。

Instagramで〈#depressed(うつ)〉と検索してみれば、1200万以上の投稿が出てくる。白黒の写真や、泣いているマンガのキャラクターの画像、そして、タバコを吸っているキュートな女の子たちの写真(時折、タトゥー入りの〈sadboi〉たちの写真も見られる)に、「助けて」「消えちゃいたい」などというメッセージが重ねられた画像も散見される。

SNSにおける鬱や“病み”の〈オシャレ化〉はなぜ止めるべきか?

ジェイムス・ブレイクの「サッドボーイとレッテルを貼るな」というのも、まさに「メンヘラなんて呼ぶな」とか「鬱ロックとか言うな」と同じ。まあ「なよなよ系男子」への偏見は欧米の方が強そうですが。

ただそのサッド・ボーイ・ミュージックにも少しずつ変化が。

例えば前述したコナン・グレイ。1996年ごろ~2000年に生まれた「Generation Z」、略して「Gen Z」と呼ばれる世代のミュージシャンで、デビューEPの収録曲「Generation Why」などで一躍有名になりました。

Conan Gray - Generation Why

タイトルの通り、Z世代やミレニアル世代が抱える鬱屈とした気持ちを歌っているわけですが、めちゃくちゃキャッチー。ほの暗いながらも希望が見えます。

アイルランド人と日本人の両親の間に生まれた彼は「Sadboi」のほかに「Soft boy」と形容されたりもします。こちらのスラングについては下記リンクにて。

そして、自身を"sadboi hip-hop"と形容しているのは、アメリカのラッパーでHobo Johnson & the LoveMakersのフロントマンでもあるホボ・ジョンソン。

Hobo Johnson - Sorry, My Dear (Official Audio)

この「Sorry, My Dear」は「死なないと決めたやつの話を聞いたことがあるか?」という歌詞から始まるアンチ自殺ソング。曲中では「ちょっと気分は悪いけど、咳とか風邪とかインフルエンザみたいなもの」と歌われていたり、苦悩と希望のせめぎ合いが見られます。

日本でも00年代辺りにバンドキッズを熱狂させていた「鬱ロック」が、10年代に入って少しずつ下火になっていきました。まあ、そもそも日本は多いですけどね。こういうの。大好き。


以上、英語スラング「Sad Boi」についての調査でした。今後、サッド・ボーイ・シーンがどのように変化していくのかも注目です。